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名前 |
乃木神社碑 |
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ジャンル |
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住所 |
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評価 |
3.0 |
昭和十一年五月健之銘。篆額 井上幾太郎。撰文 小柳司氣太。揮毫 河西惟一。石碑裏面には,宗範名義の和歌が彫り込まれていた。北区図書館に所蔵されていた『北区の歌碑句碑』に柘本があったので,それを転載する。「日の本の 守りの神と あふかるる 乃木のみやしろ まつるうれしさ(日の本の 守り能神と 阿不可流ゝ 乃木のみやしろ まつるう礼しさ)」つまり,「日本の守り神と尊敬されている乃木将軍のお社をお祀りするのが嬉しいなあ」ということだろう。以下,漢籍碑文を翻刻,訓読,私訳を試みる。『翻刻』城北十條有士名宗範榎本氏世爲邑右族篤敬神佛慕忠孝義烈之士如飢渇常曰神州正氣秀爲富岳發爲櫻萃在人則爲忠臣孝子而至我乃木將軍則道理貫心肝忠義填骨髄出類抜萃古今一人而已餘事文章亦足以百世興起頑懦矣歳昭和壬申五月建一祠於庭中以鎮将軍一門之英魂配以先考遣愛之老樹名曰乃木神社日夕拝禮匪敢或懈越五年丙子春日謁予曰先生曩任學習院教授而將軍爲院長交誼尤厚願先生之文以有教吾子孫焉予因謂此擧豈偶爾而然哉其考政太郎君最慕将軍爲人嘗任武徳會長也與顧問木村工兵大佐俱與文武館頗矜式邑子弟今宗範克継先心克述厥事可謂孝且敬矣弗可以不文而辭繁以銘銘曰(以下漢詩略)『訓読』城北十条(ジョウホクジュウジョウ)に士(オトコ)あり。名は宗範,榎本氏(エノモトシ)世(ヨヨ)邑(ムラ)の右族(ユウゾク)為り。神仏を篤く敬い,忠孝義烈の士を慕い,飢渇(キカツ)の如くとして常に曰く,「神州正気(シンシュウショウキ)は,秀(ヒイデ)ては富岳と為(ナリ)て,発(ヒライ)ては桜萃(オウスイ?)と為る。人に在りては則ち忠臣孝子(チュウシンコウシ)と為(ナリ)て,我が乃木将軍に至りては則ち道理心肝(ドウリシンカン)を貫き,忠義骨髄(チュウギコツズイ)を填(ウズ)む。出類抜萃(シュツルイバッスイ),古今一人のみ。余事文章(ヨジノブンショウ)亦(オオ)いに足(タリ)て,百世(ヒャクセイ)を以て頑懦(ガンダ?)を興起(コウキ)せん」と。歳昭和壬申五月,庭中(テイチュウ)に一祠を建て,将軍一門の英魂を鎮(シズ)め,配するに先考(センコウ)遣愛の老樹を以す。名(ナヅケ)て曰く,乃木神社。日夕拝礼(ニチユウハイレイ)匪敢或懈(アエテマドイオコタルコトナシ)。五年を越(コエ)て,丙子春日,予に謁(エッシ)て曰く,「先生は学習院教授を曩(サキ)に任(タ)え,将軍は院長と為る。交誼尤も厚く,先生の文を願い,吾が子孫に教え有らん」と。予 因(ヨリ)て謂(オモヘラ)く,「此擧(シキョ)豈に偶爾(グウジ)而して然らんや。其の考えは政太郎君なり。将軍を最も慕い,人の為に嘗(カツ)て武徳会長を任(タ)うるや。木村工兵大佐に顧問(コモン)し,文武館を俱(トモ)に興(オコ)し,村の子弟と頗る矜式す。今,宗範 先の心を克(ヨ)く継ぎ,厥(コ)の事を克(ヨ)く述べ,孝かつ敬と謂うべし」と。不文を以てべからず。而して,辞は繁り,銘を以て銘じて曰く(以下,漢詩略)『私訳』城北地区の十条に男がいた。名前は宗範という。榎本氏は古くから村の有力者であった。神仏を厚く敬い,忠孝義烈の士を慕い,常々,飢える様に言っていた。「神国日本の正しい気は,伸びれば富士山に,開けば満開の桜に,人においては忠臣孝子に変化して,我が乃木将軍に至っては,道理が心肝を貫き,忠義も骨髄を満たす。天才の中の天才は今も昔もただ一人のみ。些事の文章でも十分(な教え)であり,長い期間頑懦を奮い立たせるだろう」と。昭和七(壬申)年五月,庭の中に祠を作り,乃木将軍一門の英魂を供養し,(宗範の)亡父遺愛の老樹の傍に置く。これを乃木神社と名付け,朝夕の礼拝を決して怠ることはなかった。それから五年後の昭和十一(丙子)春日,私(撰文者,小柳司氣太)との面会を願い出て,こう言った。「小柳先生は,学習院の教授に先任され,(その後)乃木将軍が学習院の院長となりました。(先生は乃木将軍と)最も仲の良かった人物ですので,私は他でもない先生の撰文を願い,この教えを子孫に伝えたいのです」と。これを聞いて私は思った。「これは偶然でこうなったのか(いや,そうではない)。この考えは政太郎君である。(彼は)将軍を最も慕い,人の為に武徳会長を務めていた。木村工兵大佐と相談し,一緒に文武館を起こし,村の若者たちと頗る(乃木将軍を)手本した。今,榎本宗範は先の心を十分に継承し,この事を十分に述べている。これは「孝」であり「敬」というべきだ」と。これを文にしない訳にはいかない。言葉が溢れ,記念の文を銘じて詠おう(以下,漢詩略)地元の有力者である榎本宗範氏が個人的に設置したものと分かる。なお,左記の祠と老樹は現地に見当たらない。昭和二十年以降,北区は,米軍の激しい空爆に晒されたため,既に逸失している可能性が高いものと思われる。